心の中に沼があって、私はそのほとりに住んで、そこに釣り糸を垂れている。

 時に落ちてずぶぬれになったり、沼の妖怪じみたものと格闘したりしながら、捕らえた獲物や、釣ったみょうちくりんなものを干物にして、あるいはそのまま町まで持って行って、人々に売っては生計を立てている。
用が済むと人混みの中は苦手なので、すぐに沼のほとりに帰ってしまう。

 黒い沼は深くて底が見えない上に、嵐の日には荒れ狂って洪水を起こして私を困らせるけれど、とにかくここにいると落ち着く。

 そんな黒い沼はたぶん誰でも持っているもので、不気味なものばかりではなく、そこから太陽が釣れたりすることもあれば、アイデアやインスピレーションが生まれくることもある、イメージの宝庫みたいなものです。こうして黒い沼から正体不明のものを釣り上げるにつれて、沼が深過ぎて、不安に満ちたものだった私自身の正体も次第次第に明らかになり、自分が何者かをおぼろげながらも掴みかけてきたような気がしています。